【文学】沢木耕太郎再読第2弾は、本棚から「一瞬の夏」を選んだ。
今年のゴールデンウィークに四半世紀ぶりに「深夜特急」を読み完全に沢木耕太郎ワールドに嵌った私は、久しぶりに本を読む楽しみを味わった。
この楽しみを続けるために、沢木耕太郎の本をひたすら読もうと思ったのだが、何となく、小説を読んでみたいと思った。私は、いまだに沢木耕太郎の小説を読んでいないことに気づいた。
何となく、最近文庫化された数年前に朝日新聞に連載されたボクシングを題材にした「春に散る」を読みたいと思ったが、本棚を眺めてみると、読もうと思って買っておきながらいまだに読んでいない本もいくつかあった。
そんな中に「一瞬の夏」の上下巻があった。
そうか、ボクシングの小説を読む前に、ボクシングのノンフィクションを読むのも悪くない、と思い、そんな「一瞬の夏」を読み始めたのだった。
読み始めたは5月10日だったが、この日がその作品の主人公、カシアス内藤の誕生日だと知り、また、舞台の一部が私の住んでいる街のすぐ近くということで、不思議な縁のようなものを感じた。
沢木耕太郎がボクサー、カシアス内藤のマネージャー、プロモーターのようなことを一時期やっていたことは知ってはいたが、その一部始終を知ることができ、改めてすごい人だと思った。
私は、以前、沢木耕太郎の名著「敗れざる者たち」は読んでいる。
その冒頭を飾っている「クレイになれなかった男」からカシアス内藤については知っていたが、その「クレイになれなかった男」はほんの60ページ程度の短編だった。
しかし、「一瞬の夏」は上下巻に渡る超大作だ。
時期はちょうど「深夜特急」の旅のすぐ後で、その当時の沢木耕太郎をめぐる環境がこと細かく記述されており、とても興味深かった。
そんな中での、ボクサー、カシアス内藤に興味を持った沢木耕太郎は、とことんまでカシアス内藤にこだわりを持つようになり、自ら私財を投げ打って、マネージャー役を買って出ることになる。
私もスポーツは大好きなので、ひいきのチーム、選手を自らの手で作り上げていきたいという気持ちはよくわかる。
しかし、門外漢のものが簡単にできることでないことは誰でもわかることだ。
特にボクシングは、まさに興行の世界なので、海千山千のプロモーターと呼ばれるような人たちの世界に踏み込んでいかなければならない。
そんな世界に、一人で自ら入り込んでいくのだから、相当な行動力だ。
単に文章がうまいルポライター、ノンフィクションライターといったものではなく、鋭い取材力から来るのだろうか、行動力、ネットワーク力は、改めて相当なものだと思った。
ノンフィクションなので、ハッピーエンドになるとは限らない。
結末を知らなかったので、小説を読むように、貪りつくように読んだのだった。