【文学】沢木耕太郎 「地の漂流者たち」 デビュー作を含むルポルタージュ集。沢木耕太郎の原点を知るための必読書。
作者の最初の作品「防人のブルース」を含む6篇のルポルタージュ集。
沢木耕太郎の原点を知るためには必読の書だと思った。
今まで読んでなかったのが不思議に思うぐらい。初読。読めてよかった。
作品としては、「人の砂漠」に似ている。
構成されている6編のルポルタージュは以下の通り。
( )内は、作成時期。
1.防人のブルース(1970年10月)
作者初の作品。自衛隊員へゲリラ的にインタビューを行い、自衛隊員の意識、自衛隊の在り方などを調査する。
2.この寂しき求道者の群れ(1971年9月)
アングラ演劇について。新劇と比較しながら、その在り方を洞察している。
3.性の戦士(1971年9月)
ピンク映画についての考察。
4.いま、歌はあるか(1971年10月)
歌謡界、歌謡曲を取り巻く状況について。
5.単独復帰者の悲哀(1971年11月)
沖縄からの留学生(大学生)について。その実態について。返還前の沖縄は、日本にとって外国。だから留学生ということになるのだろう。
6.灰色砂漠の漂流者たち(1972年3月)
川崎という町を舞台にした、若年労働者の実態、葛藤について。
特に印象に残ったのは、やはり最初の作品である「防人のブルース」だ。
当初、自衛隊本部へ取材を申し込むが、わけのわからない理由で許可されず、自らの力で、人海戦術で取材を実行する。
最初の作品から、このような捨て身と言ったら失礼かもしれないが、なりふり構わずに取材を敢行する様子などは、並大抵のものではないことが感じられる。
インタビューの人数は相当なるもの。
そして、自らの責任を持って、批判するところはきちんと批判し、自らの分析結果を述べる。まさにジャーナリストだ。
デビュー作からして、骨のあるところがみられる。1970年の作品ということで、大学を卒業した年のものであることがわかる。
「一瞬の夏」で度々出てくるボクサー カシアス内藤を取り続けたカメラマン内藤利朗もこの取材に同行していたとのことである。
また、最も興味深く読んだのは、最後の「灰色砂漠の漂流者たち」だ。
まず、川崎という町の特殊性が述べられている。
確かに当時の川崎は、工業地帯のど真ん中で、工員で溢れているうらさびれた町といった様相が強かったのだろう。
そんな川崎という町を舞台にし、中高卒を中心とした若年労働者の実態、そして彼らの葛藤を描いている。
これは、50年経った現代の、大卒者をも含む労働者状況にも通ずるものを感じた。
さて、沢木耕太郎の原点となる本作品で、社会派ジャーナリストの様相を強めながらキャリアをスタートしたことがわかった。
大卒して1,2年の頃だが、このようなルポを書くことは危険も伴うだろう。
どんな階層にも偏見を持たずに飛び込む行動力には脱帽する。
(2020年9月13日読了)
(2020年9月15日記)