【文学】沢木耕太郎 「作家との遭遇 全作家論」 沢木耕太郎22歳時の卒論「アルベール・カミュの世界」を収録。その他22名の著名作家に対する深い洞察に感銘を受けた。
凄い本だった。
購入したのは発売数か月後、1年半ほど前。2019年の2月。数十頁読んでそのままになっていた。
この本は、「銀河を渡る 全エッセイ」という作品と2冊セットのような形で、2018年11月に新潮社から発売されている。
「銀河を渡る 全エッセイ」が既に作品化されているエッセイを再録したもののように感じられ即座の購入を控えたのに対し、この「作家との遭遇 全作家論」は私にとって初めて目にする文章ばかりで興味を覚え購入していた。
この作品は、22名の作家についての評論プラス、沢木耕太郎の卒論が掲載されている。
この本の目玉は、何といっても、作者本人が大学卒業時に書いた卒論「アルベール・カミュの世界」だろう。
沢木耕太郎は、経済学部出身だが、卒論のテーマにフランスの作家、カミュを選んでいた。また、そんなことが許されたのも、ゼミナールの教授がのちに神奈川県知事になる長洲一二氏だったからかもしれない。
そんな22歳の沢木耕太郎がどんな卒論を書いていたのかは、とても興味深いことだった。
深い文章だった。
アルベール・カミュ自身について、また彼の小説について、あまりに深く洞察、分析されており、とても大学4年生が書いた文章とは思えなかった。というより、私の現年齢はその倍以上だが、どのような作家に対しても、このような洞察はできない。
私がカミュの小説を一つも読んでいないということもその要因になっているのだろうが、私にとっては非常に難解な文章に感じられた。
そして、この本で取り上げられているカミュ以外の22名の作家は以下の通りである。
井上 ひさし
山本 周五郎
田辺 聖子
向田 邦子
塩野 七生
山口 瞳
色川 武大
吉村 昭
近藤 紘一
柴田 錬三郎
阿部 昭
金子 光晴
土門 拳
高峰 秀子
吉行 淳之介
檀 一雄
小林 秀雄
瀬戸内 寂聴
山田 風太郎
ポール・R・ロスワイラー
錚々たる顔ぶれだと思う。
しかし自分でも驚いたのだが、私自身これらの作家の作品をほとんど読んでいない。まずそのことに愕然とした。私はいかにまともな読書をしてきていなかったということを痛感させられた。
沢木耕太郎にとっての「作家との遭遇」は、その作品における解説を書くことが大きな機会だと述べられている。
沢木耕太郎についていつも思うことは、ネットワーク力が半端ないということだ。
それも、各分野で活躍している超一流の人たちとである。
それだけでも、彼自身が一流の人物であることがわかる。
それにしても、その作家たちの著作を読むだけでも莫大な時間がかかるはずだ。
自らの作品を数多く完成させ、そのうえで他の作家の作品を読み尽くし洞察する。
超人としか言いようがないと改めて思った。
と同時に、ここに取り上げられている作家たちの作品を読んでみようと思ったのだった。
(2020年8月22日読了)
(2020年9月2日記)